※この記事は、退職前、現役のドライバーだったころに書いたものである。
おはようございます。本日も早朝、まだ辺り全体が眠りに落ちている薄暗い中、私は2トントラックの運転席に腰を下ろす。エンジンをかけた瞬間に伝わる微かな振動。私にとってこの狭いコクピットは、外界の喧騒を遮断し、深く思考に沈むことができる「最高の思索空間」だ。
最近、私の日課となっているのが、スマートフォンの読み上げ機能を使った「耳からの読書」だ。先日、エコノミストのエミン・ユルマズ氏が提唱していると言われる「日本経済は今後40年間の強気相場に入り、日経平均は30万円を目指す」という驚くべき予測を耳にした。普通なら「夢物語だ」と笑い飛ばすところかもしれない。しかし、マイナス18度の冷凍食品を運び、雪道を走り、人手不足に喘ぐ現場の最前線に立つ私には、その言葉が驚くほど鮮明なリアリティを持って響いたのだ。
74歳の私が、凍える荷室で荷物を捌きながら感じている「日本の底力」と、エミン氏が描くマクロな地政学シナリオ。この二つが交差する点に、これからの日本が歩むべき道筋が見える気がしてならない。
第1章:物流の毛細血管と「西側諸国の工場」への回帰
エミン氏は、世界秩序が劇的に変化し、戦略的な主戦場が中東からアジア太平洋、とりわけ「貿易ルートの断層」へと移っていると分析している。かつて冷戦期に日本が享受した「西側の防波堤」としての役割が、米中対立という新しい冷戦構造の中で再評価されているというのだ。

私が日々走る国道や高速道路、そして入り組んだ裏道は、まさにその巨大な地政学的な断層を支える「血管」そのものだ。物流センターや大手スーパーの配送拠点へ、分単位の遅れも許されない状況で荷物を届ける。この、世界でも類を見ない「物流の正確さ」と「品質」こそが、日本が再びアジアのハブ、あるいは「世界の工場」として返り咲くための最大の無形資産ではないだろうか。
かつて、日本の製造業が空洞化したと言われた時代があった。しかし、有事の際に最も信頼できるのは、システムが壊れない「フィジカルな強さ」を持つ国だ。毎日、どんな天候でも当たり前のように荷物が届く。この「当たり前」を維持できる能力こそが、投資家が日本株に寄せる信頼の正体なのだと、ハンドルを握りながら痛感する。
第2章:ハードウェアの逆襲――「現場の身体知」が経済を支える
エミン氏は、これからの時代は「ソフト(設計)」に強いアメリカに対し、日本は「ハード(製造・現場)」の強みを活かすべきだと説いている。デジタル化が進めば進むほど、最後に物理的な「物」を動かす力――いわば「肉体労働の価値」が再定義される時代が来る。
私の現場を見渡すと、そこには凄まじいまでの「身体知」が溢れている。ネットスーパーの部屋で電話応対と箱詰め品の手配供給管理に追われるパートさんたち。そして、形状の異なる冷凍食品を、トラックの荷台という限られた空間に「テトリス」のように隙間なく、かつ荷崩れしないように積み上げる熟練のドライバー。

「24年問題」と言われる深刻な人手不足の中、私たちはAIやドローンには代替できない「微調整」の連続で社会を回している。クリスマスのファストフード店のチキンの特需を前に、2トントラック満載の荷物を一人でさばき切る。これは単なる労働ではなく、一種の「筋力トレーニング」であり、知的な「パズル」でもある。
エミン氏の言う「特需」とは、こうした現場のしぶとい力が、グローバルな供給網の中で不可欠なパズルの一片として組み込まれることと同義ではないだろうか。日本の強さは、六本木ヒルズのオフィスにあるのではなく、軍手をはめて、早朝のプラットホームで汗を流す私たちの手の内にあるのだ。
第3章:エネルギー危機と「燃料1メモリ」の緊張感
地政学的リスクの中で、最も日本にとって脆弱なのがエネルギーだ。エミン氏が省エネ技術や次世代エネルギーへの期待を語る一方で、現場の私たちは、もっと差し迫った「燃料のリアル」と戦っている。

ある朝、出勤してトラックのキーを回すと、前日のドライバーの不注意で燃料計が「残り1メモリ」を指していたことがある。その時の絶望感と言ったらない。次の契約スタンドまで持つか、配送ルートをどう組み替えればガス欠を避けつつ、時間を守れるか。冷や汗をかきながら、アクセルワークを極限まで繊細にし、惰性を利用して走る。
この「追い込まれた時の爆発的な効率化」こそが、資源のない日本が生き残ってきた伝統芸だ。かつてのオイルショックを省エネ技術で乗り越えたように、現在のエネルギー高騰もまた、現場レベルの「1滴の軽油も無駄にしない」という必死の工夫の積み重ねによって、新たな技術革新へと昇華されるはずだ。日本経済の強気相場とは、こうした「逆境への適応コスト」を払い切った先にある果実なのだと私は確信している。
第4章:シニアドライバーが体現する「40年強気相場」の適応力
私自身、74歳という年齢で正社員としてハンドルを握っている。エミン氏は、変化する環境に対する「適応力」が国家の運命を決めると言うが、これは個人にもそのまま当てはまる。

雪道で路面がブラックアイスバーンになっていようが、代車のバックミラーの操作機能が分からず、うまく調整できなかろうが、私たちは「今ある条件」で最高の結果を出さなければならない。「バックミラーが使えないなら、目視を徹底し、誘導を頼む」。そう考えながら周りに確認を重ね、結果的にバックミラーも使えるようになった。この泥臭い適応力こそが、日本経済のファンダメンタルズを支える「フィジカルな基盤」だ。
かつて日経平均が最高値をつけたバブル期、私はまだ若く、勢いに任せて走っていた。しかし、デフレの30年を経て、今の私は「いつまでに、何のために、いくら必要か」という長期的なビジョンと、何が起きても動じない「心の余裕」を持つことの重要性を知っている。エミン氏が説く投資の鉄則――「長期ビジョン」と「冷静さ」は、実は安全運転の極意と全く同じなのだ。
結び:予想外を楽しみながら、未来へハンドルを切る
渋滞に巻き込まれても、イライラすることはない。むしろ、その時間を「思索の贅沢」として楽しむ。エミン氏のような知性の言葉を浴びながら、自分の目の前にある「配送」という仕事が、どう世界と繋がっているのかを哲学的に眺める。
「74歳にもなって、まだ働いているのか」と同情する人もいるかもしれない。しかし、私に言わせれば、これほどエキサイティングな時代に、経済の最前線でハンドルを握っていられるのは、最高の幸運だ。
日本経済が30万円に向かうという「40年強気相場」。その長い旅路の途上で、私は今日もマイナス3度ほどの冷気を感じながら、確かな足取りで荷物を届ける。たとえ明日、世界がどう変わろうとも、この「確実に届ける」という一歩一歩の積み重ねが、強靭な日本を創り上げると信じて。
日々の生活の中にある「予想外の出来事」を楽しみながら、私は今日もまた、新しい夜明けに向かってハンドルを切る。
※「40年強気相場」の分析は、あくまでもエミン氏の私見である。投資は、余剰資金で、自己責任で行うこと。

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